増資が引き起こす株主軽視問題 ~企業の所有権は誰の手に~
増資とは何か
増資とは企業が行う資金調達の方法のひとつです。
簡単に言うと、企業が新しく株式を発行し、「誰か」に買ってもらうことで手持ちのお金を増やすことを言います。
この新規発行株の買い手が「誰か」によって増資は以下のように呼称が変わります。
【株主割当増資】
既存株主に新規発行株を購入してもらう方法です。
具体的には、新株予約権を既存株主に対して与え、既存株主は所有している持株数に応じて資金を提供することで、新規発行株が割り当てられるという流れになります。
【第三者割当増資】
特定の第三者に新規発行株を購入してもらう方法です。
【公募増資】
不特定多数の株主に対して新規発行株を購入してもらう方法です。
後述しますが、「増資」という行為は既存株主にとってはあまり良い話ではありません。
増資をすることで何がおきるのか?
増資をするとその企業の手持ちの現金(資本金)が増えます。
この増えたお金は借金ではないので、企業は増えた分のお金(資本金)で新規事業を興したり、設備投資をしたり、経営再建をしたりと、企業にとっては出来ることの選択肢が増えます。
これが増資の目的になるのですが、他にも「買収防衛策」や「企業間の(第三者割当増資先との)関係強化」とか色々な目的で増資されることがあります。
その一方で、既存株主に対してはあまりよくない事象が起きます。
例えば、発行済株式数が100株の企業Aがあり、第三者割当増資にて追加で100株を発行し、計200株の株式が発行済の状態になった場合を考えてみましょう。
大前提ですが、株式とは企業の所有権であり、株主は企業の所有者です。
もし、増資前に企業Aの株を1株保有している株主がいた場合、その株主は企業Aの所有権を1/100保有していることと同じ意味になります。
ところが増資後は発行済株式数が200株になってしまったことで企業Aの所有権は1/100から1/200に下がってしまっています。
例の内容だと増資によって株主の権利が半分になってしまっていますよね。
また、増資によって企業の手持ちのお金は増えますが、企業の収益力が上がるわけではないので1株あたりの利益(EPS)や1株あたりの配当(DPS)が増資の規模に応じて下がることになります。
これを「株式の希薄化」と言います。
そして、1株あたりの価値が薄まるので結果的に株価そのものの下落を招くことに繋がります。
カルピスウォーターの量を増やそうとして水を追加するのと同じで、全体量(資本金)は増えるけどカルピスの原液量(企業そのもの)は変わらないので「1口あたりのおいしさ」は当然減ってしまいますよねw
日本企業が行う増資の異常性
以下は日本証券業協会が公開しているレポートより、2008年~2012年のデータを元に日本企業と米国企業の増資による株式の希薄化率を示したものになります。
上のグラフから分かることは以下になります。
- 米国では8割以上の公募増資が希薄化率20%未満に収まっている
- 日本では8割以上の公募増資が希薄化率20%を超えている
ちなみに新株発行に関わる法制度は日本も米国もほぼ同じです。(希薄化率に対する規制は特にありません。)
増資という行為は既存株主の利益を毀損するので、基本的にやらないほうがよく、やったとしても希薄率が少ない方がいいのは自明です。
ではなぜ日本企業では大規模は希薄率の増資が横行するのでしょうか?
それは企業の経営層(役員)が株主を軽視しているためです。
米国企業では企業の所有者は株主であり、「株主が第一」の考え方が普通です。
また、米国企業の経営陣は報酬を株式で貰っていることが多く、(投資家と同じく)企業の行末と一蓮托生になるので、よほどの必要性がない限り、わざわざ自分もダメージを食らう選択肢を容易に採ることはしないのです。
一方、日本の上場企業の経営層(役員)の多くは現金で報酬を貰い、保有している自社株数も異様に少ない(経営の責任感の乏しい)サラリーマン経営者が多いため、(データが示す通り)株価や株主を犠牲にしてでも自分の保身のためのアクションに走りがちになります。
増資で調達した資本は返済義務もないし、調達コストも安いし、自分の懐も痛まないとくれば、能力とモラルの低い経営者ほど安易に増資を選択しますよねw
以下は日本企業の公募増資額の推移ですが、あきらかにリーマンショック後の2009年、2010年に公募増資による資金調達額が突出してますよね。
成長のために資金調達しているのではなく「お金足りなくなっちゃったから増資してみました☆」という軽い考えがデータから読み取れますよねww
まとめ
富松は日本企業への投資を好みません。
理由は明白です。
米国では「企業の所有者は一番リスクを負っている株主であり、企業の利益は株主のもの」という当たり前の考え方が徹底されています。
一方、日本では「企業はステークホルダー(=従業員も含め、その企業に関わる人全員)のもの(だから企業の利益は株主だけのものではない)」というアホな考え方が浸透していて、最もリスクを負っている株主が軽視されることが一つの文化のように根付いています。
なんでリスクを負ってないヤツと利益を分け合わないといけないんだww
この考え方の違いが増資の問題にも色濃く出ているのが分かりますよね。
日本企業の多くは「企業の所有者である株主が第一」という考え方が希薄です。
米国では大規模な希薄率の増資でもやろうものなら、訴訟問題に発展するのに対して、日本企業の株主はバンバン増資しても誰も何の文句も言わない投資家ばかりなので「やりたい放題やってもOK」と経営陣にナメられているという側面もあり、一概に企業だけが悪しき文化の作り手とは言い切れない点もあるのですが・・・。
増資の問題は東証一部の上場企業でも横行している問題なので、やっぱり日本株には投資したくないんですよねw
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