インデックス投資が最適解じゃなくなる日
以前「効率的市場仮説のパラドックス」の話を書いててふと思ったことを書いてみます。
現代において、「資産運用の最適解はインデックス投資である」という事が世界中で浸透してきているように思われます。
過去の歴史を振り返っても「どんなプロも市場平均(インデックス)より高いパフォーマンスを出し続ける事は不可能」という事実(歴史)が、その優位性を物語っています。
そして「人間が経済活動を続ける」ということと「インフレが存在し続ける」ことで、時間の経過と共に投資家に対するリターン(利益)を押し上げ続ける事に疑いの余地はありません。
もしも市場参加者全員がインデックス投資をしたら・・・
インデックス投資が最適解なのであれば、市場参加者全員がインデックス投資をすれば「みんなハッピーめでたし☆めでたし☆」的な話になるのですが、ここで一つ疑問が生じます。
「本当に市場参加者全員がインデックス投資をした場合、何か弊害はないのだろうか?」
例えば・・・
「節約」という行為は実施する個人単位で考えると正しい活動になりますが、全員が「節約」をしてしまうと経済の停滞をもたらしてしまう(逆に全体に対して悪影響が出る)というお話に似た懸念点が頭をよぎるのです。
この「ミクロの観点では正しい事でもマクロの観点では意図しない影響を及ぼす」という事象のことを経済用語では「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」というらしいです。
インデックス投資の性質を整理してみる
インデックス投資によって引き起こされる「合成の誤謬」を考えるために、ちょっとインデックス投資の性質を整理してみましょう。
「インデックスに投資をする」ということは概ね以下のイメージになります。
①そのインデックスに含まれる企業に対してまとめて投資する。
この性質により、インデックスに含まれる銘柄の売買は活発化しますが、インデックスに含まれない銘柄は売買は希薄になります。
つまり、インデックス投資が隆盛になるにつれ、放置される「バリュー(割安)株」が増えてくることが予想されます。
②そのインデックスに含まれる企業はベンチマーク(指標)を元に機械的に売買される。
インデックスの売買対象銘柄は「企業の将来性(成長性)」とかは考えずに「時価総額の大きさ」といったような特定のベンチマーク(指標)によって機械的に売買されるので「人間の判断(予測)」は排除されることになります。
上記の性質はインデックス投資における「最大の武器」ではあるものの、「今後、斜陽になることが予想される銘柄」や「不祥事によって暴落することが確実視される銘柄」等の将来的に足を引っ張るであろう銘柄でさえもインデックスに組入れられていれば、インデックス投資への資金流入に伴い買われていくという微妙な一面を持っています。
インデックス投資における「最大の武器」は、人間の本来の武器である「将来の影響を予測して事前に動く(対策する)」と引き換えであるため、投資家に対するリターンにある程度ロスが発生することは受け入れなければいけません。
「全体を買う」投資方法なので投資家が「何も考えなくていい」という点が逆に「何かを考えて動く」投資手法(例えばアップル(AAPL)一点買い投資みたいな)にパフォーマンスで劣後する要素になってしまうこともあるのです。
③インデックスに投資した場合、株式に付与されている「議決権」はインデックス投資した人には帰属せず、インデックス連動の金融商品を運用している企業に帰属する。
「議決権」とは株に対して付与される株主の権利の一つです。
「議決権」を行使することで株主は企業に対して口出しできるようになり、配当金や経営者を決定する際に(議案に対してYES or NOを投票する形で使われるため)重要な役割を果たします。
通常、「議決権」は株数に比例して付与されるものなので保有株数が多い(大株主)ほど企業に対する影響力は強くなります。
話を戻しましょう。
インデックス投資をすると議決権の所有者は「インデックス投資している人」ではなく、「インデックス投資商品を運用している企業」になります。
これまで数多くの株主の意見を反映することで「株主重視」の経営を行ってきた企業が、インデックス投資が主流になることで「たった数社の運用会社の意見」で会社の経営方針が決まってしまうことになります。
運用会社を信じていないわけではないんだけど、企業経営がこれまで通り「株主重視」の方向性で動いていくかは注視すべきかもしれない・・・
問題点をまとめると
前述のインデックス投資の性質から「合成の誤謬」という観点で以下の問題点がわかりました。
- (優良であっても)放置される割安株が増えるようになる。
- ダメな企業(笑)でもインデックスに組入れられている限り買われ続ける(実態と株価が大きく乖離した企業が増える)
- 株主による議決権の行使が一部の企業の決定によって左右される(株主にとってフェアな議決権行使が望めなくなる?)
1と2はインデックス投資以上のリターンを得る選択肢が増えそうなので「やっぱりインデックスより個別株投資の方がいいんじゃない?」的な意見が増える未来が予想できますね☆
一番問題なのは議決権の帰属先?
富松を含む投資家が株式投資によって得られる利益の源泉は企業が生み出す利益です。
そしてその利益が株主に対して(配当金や自社株買いで)還元されるからこそ得られます。
企業側(経営者側)は株主からの期待を裏切らないように、稼ぎ続け、利益を増大させ続ける必要があるわけです。
経営者が株主の期待に応えられない場合は、株の持つ「議決権」の行使によって、その経営者はクビになって新たな経営者に差し替えられます。
要は「経営者の好き勝手にはできない(株主が資本主義というヒエラルキーの最上位に位置する)」わけです。
つまり、ここがうまく機能しなくなることは、これまで企業が至上命題としてきた「株主利益の最大化」が守られなくなる可能性が浮上してくるわけです。
極端な例なので「実際にはそうならない可能性」の方が高いのでしょうが気になる点ではあります。
まとめ
個別株への投資(現物)をしている場合、議決権の行使によって企業(経営者)に対して「NO!」が言えます。
投資信託(アクティブ運用)の場合、ファンドマネージャーの判断により議決権の行使または、「問題がある」と判断された個別株を売却する(ポートフォリオから外す)ことで「NO!」を示す事ができます。
売却された企業の株価は大きく下がることで「NO!」が伝わることでしょう。
でもインデックス投資(パッシブ運用)の場合、指数に連動して売買するだけなので「人の判断」は入りません。
インデックス投資の悪い面だけを最大化して予想すると、遠い未来では「これまでより投資家に対するリターンが減ってくる」ことが予想され、放置されている割安株を拾うような「個別株投資」の優位性に光があたるようになるかもしれませんねw
ただそういったトレンドもきっと一時的で「やっぱりインデックス投資が最強なんじゃね?」というトレンドが再び隆盛になったりして、この2つの相反する主張の中を行ったり来たりするのが市場の心理なのかもしれません。
インデックス投資は長期保有する前提だと「最強クラスの投資方法」だと信じているものの、未来がどうなるかなんて誰にも分からないので、その性質(メリット・デメリット)を理解した上で保有していきたいものですね。
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