貧乏な人ほどリスクを無視するのはなぜか?
「お金持ちほど宝くじを買わない」という通説は良く聞くところです。
その通説の根拠は宝くじの持つ「当選確率の低さ」や「還元率の低さ」という性質が原因であることは以前、富松も紹介させて頂きました。
しかし、宝くじの持つデメリットなんてお金持ちでなくても理解できる話だと思います。
ではなぜ、お金持ちと貧乏な人でこうも考え方や行動に違いが出てしまうのでしょうか?
今回はお金持ちと貧乏な人で「リスク・リターン」の考え方の違いを宝くじを切り口に考えていこうと思います。
まずは米国の調査結果を見てみる
米国の調査結果によると、宝くじを購入している人の多くは貧困層ということらしいです。
米国人の約4割の人は「いざという時の蓄えが400ドル未満」とのことですが、貧困層が宝くじに費やす金額は年間約412ドルということで、富松的には少々理解しがたい実態が存在するようです。
非常時の400ドルさえ用意できない人達が、生活を守るための400ドルを、当選確率がほぼゼロの宝くじに全力BETするとか異常行動としか言えない・・・。
宝くじを購入する貧困層の人の考え方というものは大体以下のような内容に集約できると思います。
私たちは毎月のわずかな給料でなんとかやりくりしている。
貯金をする余裕すらない。
給料が上がる見込みもないし、贅沢な休暇を過ごすなんて夢のまた夢だ。
新車も買えないし、健康保険にも入れない。
立地のいい場所に家を建てることもできなければ、大きな借金を抱えなければ子どもを大学に通わせることもできない。
ファイナンス関連の本を読むような豊かな人たちが手にしているものを、私たちは手にすることができない。
私たちにとっての宝くじは、豊かな人が当たり前のように享受しているものを手に入れる唯一のチャンスなのだ。豊かな人はすでに夢のような生活をしている。
だから、夢のために宝くじを買う人の気持ちはわからないだろう。
これが、私たちが宝くじにお金を注ぎ込む理由だ
モーガン・ハウセル著「The Psychology Of Money」より
言いたいことは分からなくはないですが、少々合理性に欠ける考え方と言わざるを得ません。
合理的に考えるのであれば「明日から宝くじの購入を辞めて非常時の蓄えを作る」となるべきですが、残念ながら人間の思考というものはそれほど簡単に制御できるものでもないようです。
これまで、宝くじをある程度の期間買い続けてしまった人にとっては、「サンクコストバイアス(またはコンコルド効果)」と呼ばれる心理が働き「このまま宝くじを買い続けると損失が大きくなると分かっていても、これまで宝くじを買い続けた行為(=お金&費やした時間)が無駄になることを惜しみ、ついつい購入を継続してしまう」という考えとなるため「明日から宝くじの購入を辞めよう!」という合理的な行動ができなくなるのです。
過去にどれだけ宝くじを買っていようとも、未来に買う宝くじの当選確率には何の影響も及ぼさないので一刻も早く辞めたほうがいいんですけどねw
上記は米国の状況なのですが、我らが日本においても似たような状況であることには変わりません。
日本の場合、世代別で一番宝くじの購入割合が多いのが50代(81.4%)、60代(81.5%)となっております。
この年代の方々は現役引退後の世界(自身の経済状況)が現実的に見え始める頃だと思われます。
計画的な資産形成を行ってこなかった方々にとっては「宝くじ」こそ、不安な今を払拭し、明るい未来を切り開く一筋の光明として見えているかのような調査結果となっています。
一方で20代が最も宝くじを買わない年代となっているのですが、金融庁が公開している「家計の金融行動に関する世論調査 [総世帯](令和3年以降)各種分類別データ(令和3年)」によると20代の多くが貯蓄ゼロであり、(幸か不幸か)この年代は「宝くじを買うお金すら無い」という状況で、米国の事象を「対岸の火事」と傍観していられる状況ではないようです。
年代 | 金融資産非保有 (貯蓄ゼロ)の割合 |
---|---|
20代 | 38.5% |
30代 | 27.3% |
40代 | 27.6% |
50代 | 26.3% |
60代 | 21.8% |
70代 | 20.5% |
若者の「金融リテラシー向上」も宝くじ購入者減少の要因と信じたいところです。
貧乏な人のリスク・リターンの考え方
貧乏な人は、自分の置かれている苦しい状況から一刻も早く脱出したいと考えています。
これは人として普通のことです。
しかし、既に苦しい状態なので「更なる努力」だとか「自分をより追い込むような行動」からは距離をとろうと考えます。
これもまぁ理解できます。
そして少ない種銭しか手元にないため、少額で行える一発逆転の作戦を探す事になります。
- 一刻も早く
- 特に努力はせずに
- 少ないお金でも
- とにかく大きく勝ちたい
上記の要素が揃ってしまうと「ハイリスク・ハイリターン(特濃)」な挑戦一択しかなくなってしまうわけです。
これは宝くじに限った話ではなく、レバレッジを大きくかけた「FX」や「デリバティブ商品」も同様です。
手持ち資金の大部分をハイリスク商品にBETして短期間で大きなリターンを狙った結果、資金をすべて溶かしてしまうといった「貧乏人の無謀な挑戦あるある」は数えあげるとキリがありません。
そして「失ってしまったお金の大きさ」と「自身の愚かな行為」に対して大きな後悔を抱くのです。
こういったことから貧乏な人は「リスクの大きさ」を軽視し、「リターンの大きさ」のみを重視した行動をとる傾向が高いことが容易に推測できるのです。
自分のリスク許容度を無視しちゃうパターンです。
お金持ちのリスク・リターンの考え方
お金持ちは「お金を増やす事」に対して非常に貪欲ですが、同時にリスクに対する考え方も非常にシビアです。
金融の世界では基本的にリスクとリターンは比例する関係にあるので、高いリターンを得ようとするならば高いリスクの投資をしないといけませんが、お金持ちがこの「ハイリスク・ハイリターン」投資を選好するのか?というと、そうでもありません。
お金持ちはハイリスクと引き換えにハイリターンを得るのではなく、リスクを低く抑えたまま、時間と引き換えにハイリターンを得るのです。
既にお気づきの方もいるかもしれませんが「複利」の効果を利用するのが基本なんですよね。
複利の効果を大きく享受するためには、長く投資行動を継続する必要があります。
つまり、途中で退場してしまう可能性があるハイリスクな投資では、複利が満足に得られない可能性が高いので避けるというのがお金持ちの基本姿勢となります。
そして、お金持ちほど物事が計画通りにいかないことを想定するものなので、「今後30年間の投資活動のリターンが年平均8%なら最高だけど、4%でも問題ないよ。」というような投資計画自体にも余裕を持たせることが通例となります。
1億円を年4%複利で30年回せば3億1千万円(+2億1千万円)になりますし、年8%複利で回せば9億6百万円(+8億6百万円)になりますから、無理に高いリスクを取りに行く必要もなく、むしろ重要なのは「いかにリスクを抑えて長期間複利を効かせ続けるか(=退場せずに市場に居座り続けるか)」がポイントになるわけです。
一万円握りしめて「今日のギャンブルに勝たないと死ぬ」という人達とは真逆のスタンスですね。
レバレッジのかけ方に関してもお金持ちは貧乏な人とはちょっと違いが見えます。
貧乏な人はリスクを無視する傾向にあるので、「FX」のような元々リスクの大きい取引に対しても高いレバレッジをかけることで、リスクもリターンも極限まで増大させ、一瞬の輝きに身を任せようとしますw
当たればデカいんですけどね・・・
大抵の場合、一瞬で燃え尽きます☆
一方、お金持ちがレバレッジをかける場合は前述のような無茶はしませんw
例えば、1億円でリスクの低い(=格付けの高い)「証券A」を購入したとします。
年間利回りが4%で「ちょっと物足りないな」と思った場合、お金持ちは1億円分の「証券A」を担保に7,000万円の借り入れを行い、合計1億7,000万円を「証券A」で運用することを考えます。
年間の利回りは4%のままですが、運用額を膨らませることで年間に得られるリターンを400万円から680万円まで増額させることができましたね。
これは「ロンバード・レンディング(証券担保ローン)」と言い、ちゃんと使いこなせれば強力な武器になる仕組みです。
勿論、借り入れに対する金利の支払いがありますが、公定歩合(政策金利)の+1%程度のレートなので、ざっくり計算でも600万円程度(レバレッジなしの場合の1.5倍)はリターンが手元に残ることになります。
そもそも投資しているものが低リスク(高格付)であるのがミソです☆
こうなると公定歩合(政策金利)が大きく上がらない限りは複利の効果も大きく効いてくる状態になりますよね。
ちなみにこの手法は証券会社で実施可能な「信用取引(信用買建)」と本質的には同じです。
「ロンバード・レンディング(証券担保ローン)」の場合は借り入れした資金の用途に対する制限が無いという点が「信用取引」との違いです。
まとめ
お金持ちと貧乏な人とではリスク・リターンの考え方が真逆であることが分かりましたね。
貧乏な人は「どれだけ儲かるか」しか見ていないのに対して、お金持ちの人は「どうリスクを抑えるか」をよく考えています。
お金持ちがお金持ちのままである理由があるように、貧乏な人が貧乏なままでいるだけの理由があるのです。
みんなの金融リテラシーが上がって、誰も宝くじを買わなくなる社会になってほしいですねw
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