【書評】私の財産告白
本書は貧農に生まれながら苦学して東大教授になり、独自の蓄財方法で巨万の富を築き上げた本多静六氏の蓄財哲学とも言うべき内容が書かれた書籍になります。
本書を読んだ後で調べて知ったのですが、林学博士である本多静六氏は日比谷公園、明治神宮、羊山公園(埼玉県)等、多数の公園の設計や改良をしたかなりすごい方です。
さてさて、肝心の書籍の内容に関してですが、オリジナルは1950年に発行されたものでありながら、今でも通用する蓄財の心得が「日本人の視点」で書かれており、読んでいて強く戒められると共に何か心にしっくりくる感覚を覚えました。
本多静六氏という方は林学だけではなく、ドイツのミュンヘン大学に留学し、ブレンタノ博士の下で財政経済学を学んでいたとのこと。
本書の中で語られているブレンタノ博士が本多静六氏に贈った財訓がまた刺さること刺さることw
「お前もよく勉強するが、今後、いままでのような貧乏生活をつづけていては仕方がない。いかに学者でもまず優に独立生活ができるだけの財産をこしらえなければ駄目だ。そうしなければ常に金のために自由を制せられ、心にもない屈従を強いられることになる。学者の権威も何もあったものではない。帰朝したらその辺のことからぜひしっかり努力してかかることだよ」
「私の財産告白」より
この言葉に発起し、本多式「四分の一」貯金(収入の四分の一をまず天引き貯金するという現代では割とメジャーなやり方)で貯金を開始します。
そして本書の中でも繰り返し述べられますが「財産を作る事の根幹は倹約貯蓄で、貯金のまま置いておくだけではたかが知れているので、有利な事業に投資する事で国家社会の大勢を利用すべき」と説いている通り、ある程度の貯金ができると投資によって資産の拡大を図るという割と王道なやり方で莫大な資産を築き上げたのです。(本書内で鉄道株や山林の買収の話が出てきます。)
また、投資の本質に関しても以下のような意見を語られています。
金儲けを甘く見てはいけない。真の金儲けはただ、徐々に、堅実に、急がず、休まず、自己の本業本職を守って努力を積み重ねていくほか、別にこれぞという名策名案はないのであって、手っ取り早く成功せんとするものは、また手っ取り早く失敗してしまう。
「私の財産告白」より
投資の神様であるウォーレン・バフェットも同じようなことを言ってますよね。
まったくその通りです。
日本にも昔から素晴らしい本があったのに
なんでこんなにも金融リテラシーのある方の書籍が70年も前に発行されているにも関わらず、日本は貯金一辺倒な文化になってしまったんでしょうか。
富松は以下が原因だと考えます。
- かつての定期預金金利が祖父母世代で10%、父母世代で3~4%だったので資産運用の選択肢を考える機会を奪われてしまった。
- 祖父母世代の頃から銀行や証券会社で販売されている投資信託商品の多くは「高い購入時手数料」、「高い経費率」、「回転売買等の悪質な販売方法」で購入者側が利益を出しにくい投資環境であった一方、一部の個別株の高騰で一瞬にして大金を手に入れた人も出現したため、そのギャップから「投資=ギャンブル」のイメージが定着してしまった。
- 子供達に金融リテラシーを高める教育をしてこなかった。(アメリカでは政策として幼少期からの金融教育が推進されています。)
資本主義社会では人は「資本家」と「労働者」の2つに大別されるため、人生の自由を手に入れたければ自分の時間を使わずに、自分の資産を使って収入を得る「資本家」側にまわるしかないのです。
本多静六氏は本書の中でも、社会情勢が資本家を抑え、大金持ちをできるだけ作らない方針が取られているため、そこに逆らい資本家として進出することは時勢への逆行であり、人一倍の努力と工夫(うんと働き、うんと節約する)が必要であり、税制、労働法の変化に注意して臨機応変に対処する必要があると説かれています。
まるで増税や働き方改革で右往左往する現代の我々を見て言っているかのように思えますねw
本多静六氏の生き様や考え方が書かれた本書は教科書的ではなく、読み物としてとても面白いです。
文庫本なので安価で「先人の知恵」が手に入る良書としておススメします。
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