レバレッジETFの仕組みについて
最近、レバレッジ系のETF(または同系統の投資信託商品)に人気が集中していますね。
「レバレッジ」とは「テコの原理」を指す言葉で、投資元金に対して数倍の額の商品取引(または運用)を行うことが可能になる仕組みになります。(FXやCFDを経験したことがある人には馴染みのある言葉かと思います。)
SBI証券の売買代金ランキングでも上位に鎮座する各種レバレッジ商品ですが、このレバレッジETFの仕組みやメリデメをよく理解していない人が多そうな雰囲気でしたので富松の認識をメモ書きレベルでまとめてみようと思いました。
レバレッジ系ETFの種類
レバレッジ系ETFと言っても大きく2種類があります。
対象となる指数に対して順方向(同じ方向)に価格変動するレバレッジ型と逆方向に価格変動するインバース型とが存在します。
一時期、ジュニアNISA(こどもの未来を詰め込む箱)で日経ダブルインバースを購入する(日本が没落する方向にレバレッジ2倍で賭ける)という投資家が増殖したのは記憶に新しいですねw
レバレッジETFの基本的な性質その一(1日の値動きのレバレッジ倍動く)
人気のレバレッジETFの一例として「Direxion デイリーS&P500ブル3倍 ETF(SPXL)」という「S&P500に対してレバレッジ3倍で運用する」ETFがあります。
この商品は「毎日S&P500の3倍の値動きをする」特性のある商品です。
例えば、S&P500が前日比5%上昇した場合、SPXLは3倍の15%上昇します。
逆にS&P500が前日比5%下落するとSPXLは3倍の15%下落します。
つまり、1日の値動きに限定すると「利益は3倍になるし、損失も3倍になる」というのが1つの特性となります。
参考までにレバレッジ2倍の場合の基本的な値動きをグラフで表すと以下の通りになります。
レバレッジETFの基本的な性質その二(売買量が多い=経費率が高い)
レバレッジETFは現資産に対してレバレッジ倍率分の先物を購入することで運用される商品です。
例えばS&P500レバレッジ3倍ETF内で運用している現資産10億ドルあったとします。
このETFはレバレッジ3倍を実現するためにまず現資産の3倍にあたる30億ドル分のS&P500先物を買い持ちします。
1日の終わりに10%上昇している場合、先物の買い持ちが30億ドル分なので、30億ドル→33億ドルとなり、利益は3億ドルです。
つまり、現資産10億ドルで3億ドルの利益(30%のリターン)を得たのでこのETFの1日のリターンはちゃんと3倍になっていることがわかります。
さて問題はここからです。
翌日、ETFの現資産は13億ドルに増えているのでS&P500先物も現資産の3倍にあたる39億ドルまで買い増しすることになります。
そしてこの日は運悪く、前日比の15%下落を記録してしまった場合、39億ドルに対してマイナス15%で5.85億ドルの損失が出る事になります。
現資産13億ドルから損失分の5.85億ドルを引くと残り現資産は7.15億ドルになります。
更に翌日、現資産は7.15億ドルに減ってしまっているので、その3倍にあたる21.45億ドルになるまでS&P500先物を売却して現資産に対するレバレッジ比率がちょうど3倍になるようにリバランスされます。
こういった日次でのリバランスが発生するので、毎日大量の先物取引を繰り返すことになり、経費率も通常(レバレッジなし)のETFに比べると割高になるわけです。
よく考えてみてください。
毎日リバランスを行うという性質は、狙っているトレンドに乗っている局面では「保有ポジションを拡大する行為」となるので(レバレッジ倍数以上の)爆発的な利益を上げる方向に作用しますが、ボックス相場においては無駄な取引が大量に発生するのでリターンの悪化に繋がります。
ボックス相場で毎日細かくリバランス(買増 or 損切)するということはETF商品そのものの減価を加速させますからね。(+「無駄な手数料も増加」する)
レバレッジの倍率とリターンの倍率は一致するわけではない。
よく勘違いされている方が多いのであえて説明します。
レバレッジETFは「レバレッジなしのETFの一日の値動きに対してレバレッジ倍の値動きをする」のは正しい認識です。
但し、1日以上保有し続けた場合、レバレッジなしのETFよりリターンがレバレッジ倍になるとは限りません。
(たまたま)レバレッジ倍になる事もあれば、レバレッジ倍以下になることや、レバレッジ倍以上になることもあります。
ちなみにレバレッジ倍以上になるパターンは「狙ったトレンドが継続する」パターンです。
例としてレバレッジ2倍で毎日10%の上昇(3日間)を考えてみればわかると思います。
レバレッジなし:1.1 × 1.1 × 1.1 = 1.331(33.1%のリターン)
レバレッジ2倍:1.2 × 1.2 × 1.2 = 1.728(72.8%のリターン)
リターンは2倍以上になってますよね。
逆もしかりで、下げ続ければ損失もレバレッジ倍率以上になりえます。
本当のリスクは強制償還リスク
前述までの説明でレバレッジETFのリスクはそのボラティリティの大きさ(リターンと損失の大きさ)と考えることができますが、本当のリスクは「商品そのものの強制償還のリスク」だと思います。
前述しましたが、レバレッジETFは原資産に対してレバレッジ数量分の大量の先物の売買を繰り返します。
つまり大儲けすることもできれば、大損して退場するくらいの破壊力を秘めているのは自明です。
また売買数量の肥大化(=ボラティリティの拡大)によって市場が適切な状態ではなくなってしまう可能性も秘めています。
アメリカ証券取引委員会はこの危険な商品設計のETFを誰でも気軽に取引できる現状を問題視しており、近々大きな規制(廃止orレバレッジ倍率変更)がかかると考えられます。
実際、(規制云々以前に)今回のコロナショックの影響で「一旦、ETFや株を売り抜けして現金化しよう」と考える人が増えたことで、ETFから多くの資金流出が発生しました。
これにより、レバレッジ倍数分の先物のポジションを維持することが困難になり、上場廃止やレバレッジ比率が変更になったETFも存在します。
投資しているETFの商品設計が変わったり、途中でETFが廃止になる状況というのは投資家にとって大きな痛手となるケースが多いのでそもそも手を出さない方が賢明なのではないかと富松は考えます。
いくら米国市場が右肩上がりだといっても「レバレッジETF」は投資家にとっても市場の健全性にとってもリスクが大きいと思います。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません